真珠は貝から取り出した途端から人々を虜にする美しい輝きを持っており、人類最古の宝石と言われています。また、真珠は古代文化の中でも月とその神話に始まり、様々なものに連想されています。例えば、女神たちが月の光の下で流した涙やアフロディーテの身体から滴り落ちたしずくが挙げられます。
そんな真珠の独特の輝きに目を奪われた人々は欲望にかられ、時には狂気の行動だってすることがあります。今回は「宝石 欲望と錯覚の世界史」から真珠に対する人々の欲望と狂気を見ていきましょう。
実は真珠は石ではなく、2つ生物が作り出す生物的な副産物です。砂粒が貝に炎症を起こさせて、その周りに真珠が作られるという話もありますが、感染物質や寄生虫が入った時、それが排出できなくなった場合に貝が防御反応を起こし、害となるものを包み込み、そこにレンガの壁のような、互い違いの層を作り出し、生きた細胞組織内で感染物質や寄生虫が無害となるまで有機物質を分泌します。それが、沈殿し鉱物化したのが真珠です。つまり、私たちは汚染物質の残骸や寄生虫の死骸を真珠という美しい姿で見ているという事なのです。
さて、人々をを虜にする魅力がある真珠ですが、その真珠を巡り、人々の欲望と狂気があります。それはヨーロッパ諸国の植民地争いにも大きく関係しています。
当時、養殖技術がなかった時代だったため、非常に数が少ない天然の真珠がダイヤモンドよりも高値で取引されており、ヨーロッパでは王族や裕福層などの特権階級の人しか身に着けられませんでした。その中の一人、イングランドの女王、エリザベスは姉でスコットランドの女王であったメアリの真珠が原因で運命が狂ってしまうのです。
エリザベスを狂わせた真珠はラ・ペレグリーナとも呼ばれ、パナマ湾のマルガリータ島で採れた10gの巨大な真珠です。この真珠はスペインの国王に献上されました。その国王こそがフェリペ二世なのです。その後、フェリペ二世はメアリと結婚し、結婚の贈り物として、ラ・ペレグリーナが届けられました。
この真珠を見たエリザベスはその魅力に取りつかれてしまい、手に入れたいと強く思うようになりました。メアリの死後、真珠をフェリペに返します。エリザベスはフェリペとの結婚を拒否し、真珠はスペインに持ち帰られ、新しい妻に送りました。ここからエリザベスの狂気が始まることになるのです。エリザベスは真珠が欲しいがために海賊を味方につけ、スペインの財宝船を襲撃しようと計画します。ここから、真珠を巡るイングランドとスペインの戦いが始まったのです。結果、イングランドが勝利し、スペインの海上支配は終わり、イングランドは商業帝国としての地位を固めていったのです。ここから、イングランドの世界進出が本格化していきます。スペインの航海士であったコロンブスはアメリカの沖合で大量の真珠貝が発見され、そこから多くの真珠が産出されました。このことから、アメリカは「真珠の土地」と呼ばれ、ヨーロッパでは真珠の時代になりました。それと同時にアメリカはイングランドの標的にされてしまいます。また、イングランドのインド侵略はアメリカと同じ、周辺の海域で真珠が多く取れたことから起こりました。どちらもイングランドの植民地となり、植民地時代に多くの真珠貝が乱獲され、現在は絶滅しています。
このように真珠は独特の輝きに人々の目を奪い、挙句の果てには国を戦争や侵略へと誘い出すのです。真珠は本当に魔の宝石ですね。
真珠は健康、長寿、富が石言葉ですが、それはイングランドの富、権力がそのまま石言葉になったに違いありませんね。